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端午の節句――菖蒲

5月5日の端午の節句は「菖蒲(しょうぶ)の節句」とも言われ、古来菖蒲は穢れや魔を祓うなど、厄除けの力があると信じられてきました。菖蒲が重宝されてきた理由や、風習などについて解説します。

菖蒲と花菖蒲は異なる

“菖蒲”と聞くと、6月頃に最盛期を迎える青紫色の草花を思い浮かべる人も多いと思いますが、これは端午の節句に本来使われる菖蒲とは違う植物なんです。青紫色の花を持つのは花菖蒲という植物でアヤメ科に属し、節句に使用される菖蒲はサトイモ科に属します。
菖蒲と花菖蒲の葉はともに長い剣状で似ていますが、花の見た目は全く異なります。青紫色の華やかな花を咲かせる花菖蒲とは逆に、菖蒲は根元に直径5㎝ほどの黄色い花穂(穂のような形で咲く花)が出るだけで華やかさはありません。見た目は地味ですが、菖蒲はさまざまな病に効果があるとされ、葉や根茎が利用されてきました。公益社団法人日本薬学会のホームページには、次のような説明が掲載されています。

 

「採取した根茎のひげ根を除いて水洗いし、日干しにしたものが生薬の『ショウブコン(菖蒲根)』。ショウブコンは特有の芳香があり、味は苦くやや風味がある精油を含む。その水浸剤は皮膚真菌に対し有効であると言われている」。

 

薬としての効用をはじめ、日本では平安時代から、強い香気を持つ菖蒲には邪気を祓う力があると重宝されてきました。また菖蒲の読音が、武事や軍事を尊ぶという意味を持つ「尚武」に通じることから、征夷大将軍以下、江戸幕府においても端午の節句は重要視されてきたのです。また、この時期に盛りを迎える菖蒲をさまざまな形で用いることから、端午の節句は「菖蒲の節句」とも呼ばれるようになりました。

菖蒲を使ったさまざまな風習

菖蒲を使った風習は、ほとんどが邪気祓いとして行われていました。菖蒲の根と葉を湯に入れる菖蒲湯は毒気を祓うとされたのです。菖蒲酒は根の部分を乾燥させて刻んだものを浸した酒のこと。菖蒲枕は端午の夜に、枕の下に菖蒲を敷いて寝るというものです。菖蒲葺きは、表門や玄関の屋根に菖蒲や蓬を掛け健康を祈願します。薬玉は香りの強い菖蒲や蓬などの植物を束にして、五色の糸を垂らしたもので、端午の節句に身に付けたり室内に吊るしました。

江戸に流行した菖蒲太刀

風習の一つに菖蒲太刀という玩具を用いた遊戯があります。菖蒲太刀とは、端午の節句に用いる玩具もしくは飾り物のこと。菖蒲の葉に似せて作られた木刀で柄頭と鞘は末広がりになっていて、鐺と呼ばれる鞘の末端の部分を三角形にした変わった形をしています。江戸の子どもたちは菖蒲太刀を腰に差して打ち合ったり、石合戦をしたりして過ごしたそうです。
武家社会となった江戸では、男子の成長を願う端午の節句が盛んに行われました。やがて町人の間でも、兜や武者人形、幟などが家の軒先に並べられるようになったのでした。

日本人形協会発行「にんぎょう日本」2021年5月号「素朴なギモンvol.69」を一部編集して掲載

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